1.「あいしてる」
もっと言えば良かった。
貴方がこの世界に留まってくれるのなら、幾らだって。
貴方は幾らだって、私に言ってくれていたのに。
―――気づくのはいつだって、すべてが終わってからで。
なんて残酷なヒト。
(私に与えるだけ与えて)
なんて狡いヒト。
(自分の大切なモノすべて手に入れて)
なんてなんてなんて。
―――こんなにも愛おしいのに。
(この想いのすべてを、その穏やかな笑顔で飲み込んで)
―――独り、逝ってしまうなんて。
「卑怯です……っ、お兄様…………っっ!!!」
遺された私はもうきっと、誰かを愛する事なんてできない。
2.「りかいできなかった」
訳じゃないのに。
いつだってアンタは独りで背負っていたことを。
知らなかった訳じゃないのに。
(そうやって格好つけて、クールぶって)
誰よりも優しくて、誰よりも愚かなヒト。
自身を大事にして欲しいと願ったって、決して聞いてはくれない傲慢なヒト。
(人を食った様な顔をして)
そのココロが手に届きそうになると直ぐに離れていく。
(今度は絶対に届かない高みから見物するつもり!?)
―――ああ、貴方はこんなにも最後まで。
「憎たらしいわ……っ、本当に!!」
貴方は結局、私を『騎士』には選んでくれなかった。
3.「がんばったね」
カメラを通して、貴方の穏やかな死に顔を見てそう呟いた。
貴方の死を喜ぶ同僚たちの声に掻き消され、音にはならなかったけれど。
(ホントに変わらないわねぇ、アンタは)
プライドが高くて、血統書付きの猫みたいなオウジサマ。
でもテリトリーに入った人間には甘い、とんでもない人間タラシ。
(その『テリトリー』を、世界ぜんぶに広げちゃうなんて)
―――馬鹿な子。
なんて高慢な。
―――私の『箱庭』だけを、テリトリーにしてくれていたなら。そうしたら……
「そんな嬉しそうに逝くんじゃないわよ……っ、大馬鹿モノ……っっ!!」
―――そうしたら……貴方は私だけの『オウジサマ』でいてくれましたか。
4.「とまらなかったんだ」
この想いも。
この涙も。
(全部全部、お前の所為だ)
この胸の苦しさも。
この切なさも。
(お前はいつだって興味ない振りして)
気づかない振りをする。
こちらの想いなんて無視をして。関わらない様にして。
(―――そうしてお前は、俺たちを『守る』んだ)
俺たちのココロを。
お前自身が、俺たちの想いを受け入れてやれないと、『このままずっと』という願いを叶えてやれない事を、知っていたから。
(全く、とんだ友情だな)
級友は、皆遠い世界に行ってしまった。
自分だけが狭いモラトリアムに残されたまま。
(ちくしょう……ちくしょう畜生チクショウ)
それでも、いつかは帰ってくると思っていた。
お前がいつか、ひょっこり何でもない顔をして『ココ』に帰ってきて、いつもの皮肉な笑顔で俺に屁理屈を言うのだと。
なのに。なのに。なのに。
「言い訳すらないのかよ……っ、この阿呆…………っっ!!!」
なんて悪友甲斐のない男だ。
5.「うらぎりもの」
彼の血潮を手袋越しに感じながら、そう罵る。
これでおれは正義のヒーローに成り下がるのだから。
ナナリーに恨まれ、
カレンに睨まれ、
会長に泣かれ、
リヴァルに罵られる、
そんな英雄に。
(結局きみは、『ぼく』に殺させてはくれなかった)
そして、『おれ』を殺してもくれなかった。
おれの大嫌いなこの仮面をつけさせて。
おれに大嫌いな『きみ』を演じさせて。
(そうしてきみは、おれを置いて逝くのか)
裏切り者うらぎりものウラギリモノ。
きみが罪のすべてを背負って。
おれに業のすべてを背負わせて。
そうしてきみは独り逝くのか。
何たる身勝手。何たるエゴイズム。
多くの人々に恨み言を向けられる、憐れな王。
ああ、何と醜く汚らわしい孤独の王であったことか。
―――それでもきみには何度でも言ってやる。
「大嫌いだよ、おまえなんか………っ!!!」
『あいしてる』なんて言葉を、この美しく気高いおれだけの王は望まないのだから。
―――『ありがとう』。ただそれだけが言えなくて。
君に届け、恨み言!!
2008/11/19 up.