※R2本編21話ネタばれ含みます。苦手な方はご注意。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――わかっている
 
 
わかっている分かっている解かっている。
 
 
 
 
 
 彼も被害者だ。
 歪んだ愛によって運命を歪められ、過剰なエゴイズムによって望んだものを奪われた人間だ。
 
 
 ―――それでも。
 
 
 
 
 
 「…………ルルーシュは、ユフィの仇だ」
 
 
 
 
 
 己の向けた剣の切っ先を下ろす事はしなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 許せないのではなく、許さない。許したくない。
 ―――つい先日、そう言い遺して亡くなった友人がいた。
 
 なるほど、確かにそうだったのだ。
 彼女も父親を、大切な人を彼に奪われている。彼女がゼロの正体を知っての発言かどうかは知らない。
 (気づいていた上での発言だと、頭のどこかで囁いているけれど)
 それでも、彼女は『許す』事にしたのだと。
 
 
 (……ごめん、シャーリー)
 
 
 それでも許してはいけない。許したくない。
 
 
 ―――だって、
 
 
 
 
 
 「……そうだよ、スザク。俺がユフィの、異母妹の、仇だ」
 
 
 
 
 
 彼は、誰かの許しなんて欲していないのだから―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 彼――ルルーシュの言葉を聞いて、顔を僅かに顰めた。
 C.C.はただ静かに自分たちを見ている。彼女は、いつだって傍観者だ。
 変わる事のない3人の立ち位置。彼に向けられた剣も、それを支える自分の腕も、決して動かさない。
 この世界の崩壊は始まっている。それでも、誰も動きはしなかった。
 
 
 
 「……お前に掛けたギアスも、ユーフェミアに掛けたギアスも、同じだった」
 
 
 一体どれ程の時間かは分からないが、長い長い沈黙の末にルルーシュの口からポツリと言葉が零れ落ちた。
 それは独り言の様に静かで、無機質な声。
 返事を求めている訳ではないその言葉に、彼を見つめる。
 
 
 「……お前に、『生きろ』とギアスを掛けた。ユフィには、『日本人を殺せ』と」
 
 
 ひとつひとつ、言葉を区切って話すその様子はどこか幼くて。
 しかしその紫電の瞳に映る感情は、とても穏やかだった。
 
 
 「他の人間に掛けたギアスも同じだ。……全てが俺の思いと、望みと、行動によって得た、結果だ」
 
 
 枢木神社で話した時と似ている。
 しかし、今のルルーシュはその時の彼とも違った。
 
 ―――ルルーシュの視線が、決して逸らされる事がないのだ。
 
 
 「クロヴィス兄上も、ユフィも、…………ナナリーの、死も。……全てが俺のエゴによって引き起こされた、結果だ」
 
 
 明確な罰を望む眼差し。
 でもそれはかつての様に屈した瞳ではなく。
 
 
 「……お前は言ったな、枢木神社で。『自分のした事に責任を持て』と。……『最後まで奇跡を起こして見せろ』と」
 
 
 覚悟を決めたアメジストの輝きに、背筋がぞくりとした。
 魅入る事を余儀なくされる、絶対的なオーラ。神々しくも禍々しい、妖艶なカリスマ性。
 
 
 
 (……ああ、君は)
 
 
 ―――やはりゼロだったんだね。
 
 
 
 向けていた刃を下ろす。
 それにもやはり、ルルーシュは何の感情も向けなかった。
 
 
 
 
 
……君は、やっぱりズルイ人間だ」
………………
 
 
 
 己の罪や業でさえも受け入れ、己自身としてしまう。
 それが、彼の幸せを望む人間にとって許し難い事であろうとも。
 
 
 
 (それが君の選んだ、君の覚悟なら)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「―――神聖ブリタニア帝国第十一皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下。
  ………………今この時をもって、枢木スザクは貴殿下の騎士となる事をここに誓います」
 
 
 
 地に膝をつけ、頭を垂れた。
 初めてこの言葉を口にしたのは一年前。彼の異母妹に向けての誓いの言葉。
 ルルーシュの瞳は、変わらず静かにこちらを見ている。
 
 
 「貴方の剣となり楯となって、御身を御守りする事をお許し下さい。……貴方がその手で、『世界』を変えるその時まで」
 
 
 そう言って、顔を上げる。
 紫電の瞳に映る自分を見つけ、少しだけ目を細めた。
 すると、目の前の紫瞳が一度目を閉じ、ゆっくりと開かれる。
 
 紡がれた言葉は、一欠けらの迷いもなく。
 
 
 
 「―――……許そう。我が騎士、枢木スザク。…………私のこの手で、『世界』を壊す、その時まで」
 
 
 
 これは契約。
 互いに重ねた業を背負い、罪を償う為の誓い。
 
 
 
 
 
 「……良いのか。これからもっと多くの血を流すことになるんだぞ」
 
 許しの言葉を与えた後に、ルルーシュはそう零した。今の今まで澄ましていた彼の瞳が躊躇に戸惑っていて、何だかその幼さに笑ってしまった。
 「今更でしょう?僕も、君も」という言葉も付け足して。
 一回笑ってしまえば、今までの空気が嘘の様に、まるでかつての二人に戻ったかの様に自然と笑みを向けていた。
 
 そんなスザクにルルーシュは一つ溜息を落とすと、「それもそうだな」と穏やかで慈愛に満ちた表情を浮かべた。
 
 
……俺は皇帝になろう。まずはそれからだ」
 「そうだね。じゃあ僕はナイト・オブ・ワンになるよ」
 「どうせならナイト・オブ・ゼロにしよう。『ゼロ』の騎士になって貰うのだから」
 「……何だか抵抗あるなぁ」
 「今更だろう。どうせお前以外にラウンズを置くつもりはないんだ。0なら1の前なんだし、良いじゃないか」
 「最初のは良いとして、後ろの理屈はどうなんだろう……
 「相変わらず変な処に食い付く奴だな、お前も。……まあいい。取り敢えず、当面の問題はシュナイゼル兄上だな」
 「ああ、そう言えば、ジノとかロイドさん達は大丈夫かなぁ。僕がシュナイゼル殿下、焚き付けた所為なんだけど」
 「…………お前、本当に変わったな」
 「そう?寧ろルルーシュにはこっちの方がしっくりくるんじゃない?」
 「それでもこの2年でお前の豹変に合わせてきたから、行き成り戻されてもついていけん」
 
 少しゲッソリとした様子で返すルルーシュにあははと笑って謝罪する。
 
 
 
 
 
 C.C.はそんな2人の様子を見て、内心呆れつつも感心していた。
 
 (……成程、これが世に言う『ネジが外れた』というやつか)
 
 
 この様子だけ見れば、まるで1年前の再会した頃に戻った様で。
 ―――でも確実に、互いの心に傷をつけ合っている関係なのだ。
 
 
 「…………なぁ、スザク。俺は皇帝になるし、世界も変える。ギアス嚮団は潰したし、V.V.は死んだ」
 
 暫くあーだこーだ言い合って、ルルーシュはスザクにぽつりと呟き始めた。
 言葉を一旦区切ると、紫の瞳がふいと後ろを顧みる。
 その視線を受けて、C.C.は小さく溜息を吐くと面倒くさそうにぼやいた。
 
 「……安心しろ。もうこんなのは懲り懲りだ。今更、死に固執などできるか。……あの2人を消しておいて」
 
 その言葉を聞くと、ルルーシュは少し安心したように微笑んで、悪いなC.C.、と詫びた。
 そうしてルルーシュはスザクに向き直って話を戻す。
 
 C.C.はそんな彼に、少々の沈黙の後に小さな声で馬鹿がと呟いてそっぽを向いた。
 
 ―――本当に、この男は愚かだと思う。
 
 
 
……シャルルとマリアンヌも消え、ロロが死んだ今、ギアスに関わるのは俺とC.C.だけだ。
  俺やシャルルの掛けたギアスには、ギアスキャンセラーを持つジェレミアに処理を頼めば問題ない。…………だから、スザク」
 「うん。安心して、ルルーシュ。―――全てが終わったら、君は僕がこの手で殺してあげる」
 
 
 ルルーシュの言葉を遮り、スザクはその白い頬に手を添えて、微笑みながらはっきりと言い切った。
 穏やかで優しいその声は、まるで甘い睦言の様に。
 ルルーシュはルルーシュで、その言葉に安心した様に溜息を吐き、己の頬を撫でるスザクの手に自身のそれを重ねた。
 ありがとう、と小さく呟いて微笑む様子は、もはや親友を通り越して恋人同士である。
 
 
 
 「ああ、でも待って。その前に、ジェレミア卿に君のギアスを解いて貰おう。そうすれば僕も君に殺して貰えるし」
 「…………何だか、ジェレミアに怒られそうだな。こんな話をしていると」
 「でもこれだけは譲れないよ。君を殺すのは僕だし、僕を殺していいのも君だけだ…………ああ、そう言えば」
 「何だ」
 「お披露目、どうするの?皇帝即位式」
 「ああ……そうだな。高位の皇族や貴族は集めて、俺のギアスを使えば良いし……いっそ国際放送で大々的にやった方がいいな。
  兄上とやり合うにも体制を……
 「そうじゃなくて、衣装の話。僕はこの服で良いとして、ルルーシュはどうするの?まさかゼロの服って訳にもいかないだろ?
  皇族服、どうやって調達しようか」
 「……あんまりゴテゴテしてるのは趣味じゃない…………もうこの際、学生服で良いんじゃないか?」
 「え~……それじゃあ僕が浮くじゃない」
 「何を言っている。お前も学ランに決まっているだろう」
 「そうなのっ!?………………あ、でもイイかもしれない。学生服皇帝と学生服騎士」
 「だろう?帝国をぶっ壊す人間だからな。皇族服なんて着れないさ」
 「…………面倒くさいだけだろ、ルルーシュ」
 
 
 
 
 
 一部始終を傍観していたC.C.は、今度こそ呆れた視線を惜しみなく二人に送ってやる。
 
 (『ネジが外れた』程度じゃない。正真正銘狂っているよ、お前達は)
 
 狂った原因が、親なのか、ギアスなのか、世界なのか。
 恐らくその全てが絶妙に混ざり合って、この二人の奇妙な関係が成り立っている。
 
 
 
 じゃれ合いながらも、そろそろあちらに戻ろう、と声を掛けてきた二人に、C.C.盛大な溜息をプレゼントしてやった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
拈華微笑と魔女の溜息
 
 
 
 
 
「拈華微笑」は仏教における「以心伝心」を表す言葉です。
Turn21を観て、パパンやママンに対する疑問点や不満等など色々ありつつも、やっぱり最後の5分に全てを持っていかれました。
しょーがねぇじゃん……スザルル好きなんだもん……
 
 
 
 08/09/04 up
 08/11/16 加筆修正
 
 
 
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