※R2本編20話ネタばれ含みます。苦手な方はご注意。
神根島に来たのは良かったけれど、肝心の入り口が壊されてしまっていて。
あらあら困ったものね、と思いながらも、まあ私は実体から離れれば良いだけだし、とにっこり笑う。
後ろから付いてくるC.C.の存在を確かめて、十数年振りにKMFを動かして凝っただろう体を伸ばしてみるが、さして変化はなかった。
ああ、そういえば。と、自分が居候しているこの体はラウンズのものだった事に気付いて、今更ながらに己の体を見下ろす。自分で言うのも何だが、かつての自分の体は女性として完成していた、まあ所謂抜群なプロポーションというやつで。見下ろして目に入るのが発育途上の少女の姿だと、新鮮な光景に思えてくる。何度も言うが、今更だ。
何をしているんだ、と付き添いの少女に声を掛けられ、少女の姿をしたマリアンヌはふふっと笑う。
私ってスタイル良かったのね、色々と。等と女性が聞いたら怒りそうな事をさらりと言ってのけるマリアンヌにC.C.は呆れた視線を送った。お前は本当に変わらないな、といっそ感心する言葉を添えて。
あらあら、私が変わったら気持ち悪がるのは貴女じゃない、と返すと、少女はその金色の瞳を細めた。
「……何を待っているんだ、マリアンヌ」
その問いには答えず、ニコニコと笑みを返すだけのマリアンヌに、C.C.は諦めたような溜息を零すと会話を打ち切った。
「ふふふ、そんなにあの子の事が心配なのかしら」
C.C.の様子に、今度は悪戯を思いついたような声でマリアンヌが訊く。
そんなんじゃない、と素っ気なく返す少女が可笑しくて、貴女って可愛かったのねぇ、とクスクス笑った。
真面目に取り合わないマリアンヌに、C.C.は再度溜息を吐くと破壊された扉を見上げる。
(……それがお前の選んだ償いか)
人には死を選ぶ事など許さないと言っておきながら。
「本当に厄介な男だな、お前の息子は」
「あら、可愛げはあるじゃない。私とは大違いねぇ」
「…………お前の場合、自覚がある分厄介度は万倍だからな」
少々げんなりした風にそう零すと、失礼しちゃう~、等とマリアンヌが口を尖らせる。そんなやり取りをしていれば、後方から駆けてくる足音が聞こえてきた。
「あら、漸く来たのね」
笑みを深めるマリアンヌに倣って振り返ると、そこには満身創痍で、しかし滾らせる闘志は何一つ欠けていない少年が、かつての同志(今の彼はラウンズでは裏切り者だ)の存在に目を瞬かせる。
「アー……ニャ……?」
その表情は、何故此処に、というものと、何故C.C.と共にいるのか、という疑問が綯い交ぜになっていた。
見ていて面白い展開だが、ここでこの少年とやり合っている時間はない。
「おい、マリア――」
「こうして話すのは初めまして、枢木卿。いつも息子達がお世話になっているわね」
――ンヌ。こいつに構っている時間はないぞ、と続けようとしたC.C.を遮って、マリアンヌはまるで近所に住むおばさんの様にスザクに話しかけた。
そんな彼女の行動に、当のマリアンヌ以外の二人はフリーズする。
特に、順応力は決して悪くない、寧ろ優れているといっても過言ではないだろうスザクも、もちろん自分より年下の、しかも自分の記憶が正しければ決してこんな風に話しはしない元同僚に混乱していた。
「アー、ニャ……?」
「そうね。貴方にとってその名前がこの体には馴染深いでしょうね。この1年、私はいつもこの子を通して貴方を『視て』いたわ、枢木卿。8年前はC.C.を通して」
そう言ってC.C.を顧みると、若干不機嫌な顔をしている。
「……マリアンヌ、まさかこいつまで連れて行くつもりか」
「あら、いけない?」
「態々邪魔になる奴を連れていく必要性はないだろう」
「邪魔なんかさせないわ。私を誰だと思っているの?」
「あ、の……、待って。……どういう事……?アーニャ、なんで君がC.C.と共に……――」
彼女達の言っていることは何だ。
視ていたとは何だ。
連れて行く?何処へ?
「――……マリ、アンヌ…………?」
この、名前は。
スザクが混乱していると、ああ、そう言えば自己紹介もまだだったわね、と、知らない笑顔で目の前の『アーニャ』は笑う。
「私の名前はマリアンヌ。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。かつてはブリタニア皇妃だった、ルルーシュとナナリーの母です。」
この子には、8年前から体を借りているの、と言って自分を指さすアーニャ――もといマリアンヌに、スザクは唖然とする。
幼馴染達からは死んだと聴かされている。否、そもそも彼らがこの地にやってきた理由が、マリアンヌという女性の死ではなかったのか。
では目の前の女性は、一体誰だ。
「う~ん、本当はもう少し説明した方がいいのかもしれないけど。ごめんなさいね、時間がないの」
そう言うと、マリアンヌはスザクに歩み寄る。
そんな彼女に、本来ならば警戒して間合いを取るべきスザクの足は、どうしてか動かない。
視線も体も、自分から逸らせない少年に笑みを浮かべると、マリアンヌは鈴の音が鳴る様な楽しげな声を紡いだ。
「……貴方、真実は知りたくなぁい?」
その言葉に、スザクは目を見開く。
アーニャの薄紅色の瞳が深い藍色に染まった様に見えた瞬間、自分の体が光に包まれていき、誘われるままにそこで意識は墜ちていった……―――
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マリアンヌ様は腹黒系でいて欲しいな。……という私の勝手な妄想です。
本当は一遍にアップしたかったんですが、一応ここで区切ります。
次回はルルーシュ視点。
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